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~これでも仕事用です~

エノケン!ロッパ!カサギ!

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芸能という観点から戦前モダニズムを語るとなると、どうしても外せない看板があります。
さらに「東宝と松竹のモダニズム劇」に絞るとなると、看板としてエノケン、ロッパ、笠置シズ子の三名を中心に見ていくのが一番わかりやすいのです。
(ま、笠置シズ子は戦前の時点では看板じゃないんだけどね。その話はまたおいおい)
本ブログもね、戦前モダニズム話となると少しずつマニアックな方向にならざるを得ないので、今回は簡単に「看板」の三名についての基本的なことを書いておきます。

まずはエノケンこと榎本健一について。
1904年、鞄屋の倅として生を受けた彼は、などとプロフィールを書いていってもつまらないだけなので大幅に割愛して(興味のある方はWikipediaでも読んでください)、重要なことだけ拾っていきます。
特に重要なのは

・幼少時よりバイオリンをたしなんだ
・15歳の時、浅草オペラの柳田貞一に弟子入りした
・18歳の時にコーラスボーイとしてデビュー

浅草オペラとはオペラと名がつくものの、まあ超大衆的なオペレッタ(喜歌劇)であったといわれ、たしかに笑いは重要な要素に違いなかったようです。
しかしそれを差し引いても、上記の経歴は「コメディアン志望」ではなく、どう見ても、今風にいえば「ミュージシャン志望」の人のルートです。
エノケンのやりたかったことは終始音楽ありきだったといわれており、経歴を見ても、音楽と笑いを対等に扱いたがった、というのがわかります。
だからエノケンを単なるコメディアンとして扱おうとすると、途端に評価が下がる。たしかに抜群の身体能力と喜劇的感覚を持っていたといわれますが、今の時代から見た場合、笑いだけを取り出せば、残念なことにかなり稚拙に見える。
だけれども、もし「抜群の身体能力と喜劇的感覚を持った」ミュージシャンとして見れば、これはまったく評価が変わってくるのです。

彼のモダンな感覚が活かされた映画やレコードは相当数現存しており、戦前モダニズム=エノケン、といっていいレベルで昇華されている。
エノケン主演の音楽喜劇が「今観ると笑えない」ことを差し引いても、価値があるのはそこです。
今後、個別にエノケン映画について書いていきますが、その中で、喜劇的才能のあったミュージシャンとは如何なる存在だったのかも書いていきます。

続いてロッパこと古川緑波です。
二十一世紀に入ってから、いや特にここ1、2年くらいですか。全盛期の、つまり「喜劇王」ロッパからすれば、ちょっと意外な形でスポットが当たってきています。
もしかしたらロッパの死後から50年が経ち、彼の膨大な日記が青空文庫に収録されだした(つまり無料で読めるようになった)ことも関係あるのかもしれませんが、昨年から今年にかけて「ロッパ食談」の完全版や「苦笑風呂」が発刊されたり、ロッパ自身の書いた、そして第三者がロッパのことを語った文章を集めたムック本まで発売された。
つまり「古川緑波=戦前モダニズムを含む昭和芸能文化を書き留めた文筆家」として評価しようという動きがでてきたのです。

良家のお坊ちゃんだったロッパは早熟の天才で、学生時代から商業誌に映画評を書き、同時に「声帯模写」という造語を作り舞台でモノマネを披露するなど、良家のお坊ちゃんらしい道楽ぶりを発揮します。
その鮮やかさを菊池寛小林一三に認められ喜劇役者として立っていき、良い意味でエノケンとライバル扱いされて戦前のモダニズム喜劇を引っ張る存在になります。
戦後、人気が凋落したのは、芸がすでに古びていたこともありますが、必要以上の自尊心からくる横暴ぶりからだと言われており、しかも晩年は病魔に苦しめられたこともあって、どうしてもそこばかりがクローズアップされる傾向にありました。(まァ、評伝なんかだと「そこ」をクライマックスにせざるを得ないのはわかるのですが)

ところが今、コメディアンとして以外の、もうひとつの能力である「見巧者による文章」が注目されつつあるのは面白い。
彼の残した膨大な日記は、戦前モダニズムを語る上でも最上級の資料であり、ワタシの戦前モダニズム私感もロッパの日記に頼るところが非常に大きいのです。

あとひとりの笠置シズ子とは、もちろんあの「東京ブギウギ」を歌った、あの笠置シズ子です。
しかし「東京ブギウギ」は戦後の話です。では戦前、彼女はどういう足跡を辿っていったのか、これも戦前モダニズムと大いに関係があります。

あ、これは書いておいた方がいいと思うんだけど、今後すべて彼女の名前を「笠置シズ子」表記とします。
1950年代後半になって彼女は歌手を引退、同時に「笠置シ『ヅ』子」名義になりますが、ワタシが書きたいのはあくまで歌手、もしくはレビュータレントとしての彼女なので、笠置シ『ズ』子でいいのです。

エノケン、ロッパ、笠置シズ子、この三人は戦前の時点では「交わりそうで交わらない」という関係ですが、その辺のことも、また折々書いていくつもりです。
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