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~これでも仕事用です~

エノケン映画鑑賞記3「エノケンの千万長者・正續篇」

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戦前は一本の映画を正編続編(前編後編)に分けて公開、というパターンが多かったようです。
エノケン映画もこの「千万長者」を皮切りに、数本の作品が正続編スタイルで公開されるようになり、これは製作本数が制限される頃まで続きました。
戦後も「新馬鹿時代」は前後編ですが、まァそれくらいで、エノケン以外では東宝の社長シリーズだけが正続編スタイルで作られています。

では正篇(正編)から。
筒井康隆が少年時代に観た映画について記した「不良少年の映画史」が、後年書かれたエノケン研究書より貴重なのには理由があります。
戦前に作られた映画は盛大にカットされた作品が多数あり(理由は長くなるから割愛)、黒澤明の「姿三四郎」の最長版が某国で見つかった、などのニュースをおぼえておられる方も多いでしょう。
そりゃね、黒澤明レベルなら必死になって「失われたフィルム」を探してもらえる。でもエノケン映画なんか、仮に気づいてもらえても「所詮喜劇でしょ?じゃあ別に」と思われるレベルです。
だからか、現存する映画でも大半の作品で欠落がある。もちろん今回の「千万長者」でも。
たとえば
質実剛健の教えを受けたエノケンが、その不良ぶりを見込まれて家庭教師になったモボの二村定一(モダンボーイ略しての「モボ」ね。ホモの、じゃないよ、いや間違っちゃいないけど)に連れられて暴力バーに行くのですが、「不良少年の映画史」によれば、エノケンの悪友二人組が助太刀する、とあります。が、現存するフィルムにはこのシーンはない。
「青春醉虎傳」と「魔術師」はあまり欠落が目立たないのですが(「魔術師」で歌手役で二村定一が出ているはずなのに出演シーンがほぼない(実はほんの一瞬だけ映ってる)とかはあるけど)、「千万長者」はいくつか不自然なシーンが散見されるのは、たしかに真っ当に評価できない理由にはなります。(それでも半分ちょっとくらいしか現存せず、ハナシすら繋がっていない「ちゃっきり金太」に比べればマシだけど)

しかし、それを差し引いても、どうも面白くない。
絶対にカットされていないのは音楽絡みのシーンですが、現存するギャグ自体、どうも練り込みが足りない。
たとえば大ブルジョアエノケンが莫大な寄付を期待されて、というかタカられて、その見返りに各運動部で無理矢理「万能選手」ってことにされるシーン。
野球部に入ったエノケンが打って(一塁じゃなしに)三塁に走ったりするんだけど、そういうことじゃないと思うんだよな。だいたいエノケンが運動音痴ってのが無理があるし、それじゃ「大ブルジョアのお坊ちゃん」って設定の意味がなくなる。
それならまだ審判に現金を掴ませてアウトをセーフにするとかのが良かったような。
ま、バックに流れてる「江木三郎君応援歌」は大仰で面白いんだけど。

ストーリーは「青春醉虎傳」の焼き直しに近く、肝心のレビューシーンも、どうにも変なキャメラワークで観ててイライラします。
斜めからみれば、男色家として知られた二村定一が、女性とやたらベタベタするシーンが多いのが可笑しいのですが、これは映画の面白さとは関係ないですからね。

続いて續篇(続編)の方。
映画の出来不出来でいえば前編よりは、まあマシ程度なんだけど、途中で挟み込まれるエノケン二村定一が黒人に扮して歌い踊るレビューシーンは、ジャス評論の大家・瀬川昌久氏がいうところの「戦前の日本映画では唯一の貴重なショウ場面」です。
セントルイスブルースから始まり、タップダンスを挟んでのエノケン二村の「掛け合い漫唱」は、いやもう涙が出るレベルです。(どうもオリジナル曲らしく曲名がわからないのが残念だけど。瀬川先生ですらわからないんだからワタシがわかるわけない)
しかし、まあ、エノケンはもちろんのこと、二村定一がいいんだよ。このシーンを見るだけでも「エノケンあっての二村定一」「二村定一あってのエノケン」ってのが嫌ってほどわかる。
というか二村定一って人をレコードで評価してもしょうがない気がするんですよ。

もうひとつ。中盤でエノケンによる「バイオリンによる弾き語り」が観れるのは珍しい。ギターで弾き語りってのは、それこそ植木等をはじめいっぱいいるけどさ。
いくら幼少期からバイオリンに慣れ親しんでいたと知ってたとしても、軽くバイオリンを弾きながら「のんき節」を虎造ばりに(つまり一層ダミ声で)歌うエノケンの、レビュー役者としてのレベルの高さが本当によくわかります。

續篇は一般にいえばクライマックスのエノケンひとり7役なんだけど、今の目で見たら、ね。むしろクライマックスはエノケンらしくレビューシーンにして欲しかったって思うくらいで、ええ。

ここからは余談。
オープニングの「洒落男」の替詩で「月の小遣いが5万円」と歌われていますが、現在の貨幣価値に直すと(当時は土地の値段が安いから単純計算は出来ないんだけど)、なんと3000万円以上!はるかのちの大富豪ギャグ漫画「おぼっちゃまくん」が月1500万円だったらしいですから、倍以上ってことになります。
ま、大富豪ギャグってことなら、子供向きで下がかったギャグが多かったことを差し引いても「おぼっちゃまくん」の方がレベルが高いんだけどね。ワタシはあんまり好きな漫画じゃないけど。

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