~これでも仕事用です~

小林一三という基点の基点

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今日と来週、NHKにて「放送90年ドラマ 経世済民の男「小林一三」」が放送されます。
そこで「小林一三とは如何なる人物だったか」を、戦前モダニズムという観点から書こうかと思ったけど、あまりにも功績が多すぎて簡単には書けません。
その代わり、小林一三が残した、しかし戦前モダニズムを語る上であまり語られてない「あるモノ」について書きます。

もし小林一三という天才実業家がいなければ、日本のエンターテインメントはまったく違った展開になっていたであろうことは想像に難くありません。
大衆のためのエンターテインメントを標榜し、道楽者だけではなく家族が揃って楽しめる娯楽を目指しながら、極めてモダンな世界にこだわった、阪急電鉄育ての親であり東宝生みの親でもある小林一三にかんして、もう幾多の評伝が出ているし、何なら彼が残した日記まで出版されている。非売品なので読むのは特定の場所に行かなきゃ難しいんだけど。

小林一三日記は国会図書館にも所蔵されているようですが、関西にお住まいの方なら、池田文庫に行く方が手っ取り早い。
池田文庫。名前の通り大阪の池田市にあります。阪急池田駅から徒歩10分程度。近くに大きな病院があるので、それを目印にして行けば良いでしょう。
池田文庫には小林一三がかかわった数々の事業にかんする書籍が所蔵されています。でも宝塚歌劇関連が多いのがね。戦前の宝塚歌劇はともかく、ワタシはそこまで興味がないもんで。
二階はイベントスペースになっており、ここで小林一三に関係する展示なんかをやってたりします。

さて、それは、まあ、いい。それより池田文庫から徒歩3分程度のところに「小林一三記念館」(雅俗山荘)なるものがあります。小林一三の邸宅を改築したもので、改築ったって外観も内装もほぼそのまま。レストランを併設して、あとは一部を展示スペースにしてるだけで、ほぼ完全に保存されています。
建立は1937年。完全な洋風建築でして、ああ、ここまで我慢してきましたが、これがもう完全に戦前モダニズムの世界なんです!
いや、もっといえば当時の東宝映画のセットのようで、吹き抜けの階段など、今にも、エノケンが歌いながら降りてくる、と錯覚するくらいでしてね。
この吹き抜け部に応接セットが置いてあって、誰でも腰掛けることができるのですが、ソファに身を沈めると、ちょっと言葉ではいえないトリップ感覚に襲われるのです。

というのもですね。
ワタシもしつこく戦前モダニズムがどうだとか書いてますが、今この目で見ることができる映像や写真はほぼすべてモノクロなんですよ。
映像がモノクロなのは、まァ、どうしようもないと諦めもつくのですが、写真でさえカラーのをほとんど見たことがない。
いくら貴重品だったとはいえ、当時はすでにカラーフィルムはあったわけです。実際戦前期に撮られたカラー写真も皆無じゃない。というかそれなりにあります。
しかし芸能分野で、たとえば当時のレビューだったり映画のスチールでいえば、見事にない。
(ただし映像も写真も例外はなくはないけど、ややこしいのでまた今度)
だからエノケンもロッパも、戦前期のもっとも華やかに活躍していた時代の顔をカラーで見たことがないのです。

小林一三記念館はまるで東宝映画のセットのようだ、と書きました。実際に館内に入ると、当たり前ですが、そこにあるのは自分の目で見た景色なんだから、当然精細な総天然色です。本来モノクロでしかなかったものが、鮮やかな色彩で目の前に広がっている。どころか、その世界の中を歩いたり触ったりできる。
タイムスリップ、なんて言葉を使いたくない。使ったら最後、一気にSFチックに塗り固められちゃうから。
ただそれでもトリップ感覚はおさまらない。
二階の大きな窓から壮大な庭を眺めてみると、そこまで顔を上にあげなければ、1937年と何一つ変わってないであろう世界が広がっているわけで、本当に上手くいえないんだけど、身体の細胞が弾け飛ぶような感覚になったのです。

小林一三の功績になんて書き出したらキリがない。でも阪急電車や阪急百貨店や東宝や宝塚ファミリーランドや宝塚歌劇や阪急ブレーブスなんかと同等に、この邸宅を残した、というのも入れてもいいんじゃないかな。
いや、もうここはいろんな意味で、戦前モダニズムに関心がある人にとって聖地ですよ。大袈裟でもなんでもなくね。

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