~これでも仕事用です~

エノケンの孫悟空はパクリ映画なのか?

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前々回のエノケン映画鑑賞記5「エノケンの孫悟空」についての補足というか、なんというか。

この映画がDVD化されない理由として、著作権違反が挙げられます。
たしかに劇中に「星に願いを」や「ハイホー」がほぼ同じ旋律(但し歌詞は変えてある)で歌われますし、主題歌の「孫悟空のテーマ」からして、「The Man on the Flying Trapeze(ブランコ乗りの男)」とほぼ同一の旋律です。

デ◯ズニーは特に著作権にうるさいことで有名なのですが、こういうのってね、うるさいからやらない、うるさくないから勝手にやっていい、なんてもんじゃない。それじゃ著作権ってなんなんだってなる。
孫悟空」に限らず、エノケン映画なんかもうそれこそ外国曲のカバーばかりで、むしろ日本人が作った挿入歌を探す方がめんどくさいレベルです。

戦前の日本は著作権に極めていい加減な国でした。
日本が万国著作権条約に調印したのが1956年とのことで、それまではむしろ外国作品の方が「使いたい放題」だったフシすらあり、外国映画を下敷きにした邦画作品など珍しくもありません。

これは舞台からの流れが大きい。
映画で外国曲を使用する場合、通常の数倍の著作権料が発生するらしいのですが、この当時は、舞台ならまあいいけど、レコードとか映画の中で使う時は注意した方がいい、なんて発想は微塵もなかったはずで、舞台でいいんだからレコードや映画は何でダメなの?ってなるのも当然です。

さらにいえば、デ◯ズニーが著作権にうるさいと言われ出したのは1980年代に入ってからのことで、他の曲はともかく「星に願いを」はマズいよ、なんて思うわけがない。
つまり「孫悟空」だけが突出して著作権がどうのこうのと思うのは、ワタシたちが二十一世紀の住人だからです。

はっきりいえば、もし「孫悟空」がダメなら「青春醉虎傳」も「千万長者」も同じです。(とくに「千万長者」はひとつの曲にいろんな曲の旋律を混ぜて使ったりしてるから、さらにややこしいと思う)
いや、もっといえば、戦前の日本のトーキー映画なんか大抵ダメですよ。絶対ちょろっとは外国曲の旋律とか使ってるもん。

それでも「孫悟空」だけ特に著作権無視のイメージが強いのは、后篇の御伽の国のセットのせいでしょう。
デ◯ズニーランドを意識したようなセットで「星に願いを」やら「ハイホー」を歌うんだから。
しかしこれも異を唱えたい。
あれはデ◯ズニーじゃなくて「オズの魔法使」を意識したとしか思えないのです。特に異様にデカい花など模擬したとしか思えない。

真偽不明の話ながら、「孫悟空」はパートカラーで作られたという話があります。もし本当だとしてもカラーで撮影されたフィルムは現存してないでしょうし(何しろモノクロでも欠落があるんだから)、今となっては確かめようもない話ですが、これも「オズの魔法使」を下敷きにしたってことであれば納得できる。
孫悟空」の前年に製作された「オズの魔法使」はパートカラーというよりパートモノクロといったものですが、途中からカラーになるのが抜群の効果をあげている。

オズの魔法使」が日本で封切られるのは戦後ですが、山本嘉次郎監督か誰かが外地で「オズの魔法使」を観てね、「ああいうのを、やりたい」と思ってもちっとも不思議じゃない。(余談ですが、当時映画関係者が特派員としてシンガポールなどに出向き、日本に輸入されてなかったハリウッド映画を目の当たりにしてショックを受けた、なんて話は山のようにあります)
いや、そんなことをいえば「孫悟空」は全編「オズの魔法使」調で、中国っぽいのは最初だけ、あとは摩訶不思議な幻想の世界を旅する構成になっています。

だからね、むしろ「オズの魔法使」っぽいことをやるために、それっぽい曲を引っ張ってこようとした結果が、アニメーション作品の「ピノキオ」や「白雪姫」から、になったんじゃないでしょうか。
いくら「孫悟空」が子供向けの要素があるにしろ、アニメーション作品の挿入歌ありきってのは考えられないですよ。しかも「ピノキオ」も「白雪姫」も「孫悟空」公開当時は日本で封切られていないんだから子供ウケもヘッタクレもないわけで。

正直にいえば「孫悟空」をはじめとするエノケン映画、いや外国曲の旋律が使われているすべての戦前トーキーにいえるのですが、これらが著作権の問題でDVDにできないかどうか、それはワタシにはわからないです。

しかしキネマ倶楽部からVHSで「孫悟空」が発売されたのは1990年代に入ってからで、つまりデ◯ズニーはうるさいよってのが知れ渡ってからのことです。
さすがにVHSはいいけどDVDはダメってことはないと思うんですね。もちろんVHSやレーザーディスクでソフト化された映画が、DVDで出せない場合があるのは知っています。でもそれらとは事情が違うように思う。

ワタシは需要の問題だと思うんだけどね。
ただでさえフィルムの修復に費用がかかるし、しかも「もしかしたら著作権で問題になるかもしれない」「クリアできたとしても外国曲は日本の曲の数倍の著作権料が発生する」という及び腰になる理由もある。
それでも絶対売れるとわかってたら、やると思うんですよ。
でもね、大変な問題がありそうなわりに大した販売数も見込めない、しかももう映画の著作権も切れてるから、ネットとかにアップされても文句が言いづらい、となったら、そりゃ誰も本腰入れてやろうとは思わないわな。

これが小津安二郎なんかだとDVDボックスで、なんて商売が通用する。事実発売されてるのは、たとえ、ン万円だろうが、買う人は買う、という計算ができたからだろうし、ン万円で買ったものをネット上にアップするなんて人は、いなくはないんだろうけど、結構愚かな行為です。
しかし「エノケン映画DVDボックス」なんて出たとして、買う人がどれくらいいるかってことですよ。たとえね、実は現存するといわれている「ちゃっきり金太」の完全版が収録されてたとしても、ン万円出して買う人間がはたしてどれくらいいるのか。

以前「DVD化して欲しい」とは書いたものの、まあ、正直にいえばメディア化はあんまり期待してないんです。でもせめてスカパーとかでもう一回全部流してくれないものでしょうかねぇ。

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