~これでも仕事用です~

生ける時代の証人

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もうずっと、誰か中村メイコに戦前の映画界のことだけに絞った聞き書きの本を作らないかなぁって思ってるんだけどね。なんならワタシがやることすら、やぶさかではない。

この間触れた「エノケン孫悟空」は1940年の作品です。何しろ75年も前の作品なので、もう出演者のほとんどは鬼籍に入られています。それもかなり昔に。
ところが生きておられると確認できる人はひとりだけ、もちろん中村メイコなのですが、実はつい先日まで、もうひとりご健在でした。

その人とは加藤治子。後年「寺内貫太郎一家」などのドラマに出演するなど、昭和を代表する名女優ですが、当時は芸名が違うし(御舟京子名義)、「孫悟空」では踊り子のひとりで存在の確認すらままならない。でも「エノケン弥次喜多」とか、エンタツアチャコ主演の「人生は六十一から」とかにも出てるし、なんたってこの人、松竹歌劇出身だからね。いわば戦前のレビュー華やかなりし頃の生き証人ですよ。
何とかお元気なうちに、と思っていたのですが、本当に残念です。ご冥福をお祈りします。

そしてもうひとりは、言わずと知れた中村メイコです。
当時は子役だし、どの程度記憶されてるかわからないんだけど、お元気ってことでいえば今でもちょくちょくテレビで拝見するほどで、聞き書きを作れるだけの体力もおありなのは間違いない。

何しろ舞台でも映画でも、エノケン・ロッパの両巨頭と共演してるのが凄い。ロッパも例の日記で、まだ子役時代の中村メイコをべた褒めしています。
実際子役時代の中村メイコの評判はロッパに限らず抜群で、「孫悟空」を観ても子役特有のこまっしゃくれた感じが全然ない。当時幾多の「和製テンプルちゃん」がいましたが、その後の幸福な人生を考えると、中村メイコこそ和製テンプルちゃんに相応しい。むろん本物のシャーリー・テンプルのように実業家になったわけじゃないけど。

中村メイコは自分でも文章を書く人で、かなりの数の著作があります。
ところが戦前の映画界(というか東宝)についてはあんまり書いていない。全然、じゃないけど、本当はもっと引き出しはあるはずなんです。
それにこの人の著作は全部エッセイ風で、読み物としては面白いけど、資料として用いるには心細い。
だから本人に書いてもらうというより、戦前の映画界に詳しい人が補足しながら聞き書きするって形が一番望ましいのです。なんなら当時の出演映画を観ながら思い出してもらうのもいい。

これはね、もう「誰かがやっとかなきゃいけない」んです。
市川崑とか岡本喜八とかね、あと俳優でいえば小林桂樹とか、晩年になって聞き書きというか、彼らの記憶を全部書き留めるような対談本が出ましたが、ああいうのは絶対に残さなきゃいけない。でないと亡くなられた瞬間、事実ですら消えてしまうんだから。
ご本人の記憶だけでは曖昧だったりゴッチャになったりするのは、まあしょうがない。なにせ大昔のことだからね。だからこそ詳しい人が常に補足する。これでもかってくらい資料を抱えてね。

植木等も晩年になって対談本が出ましたが、惜しむらくは聞き手の戸井十月植木等にかんしてあまり知識のない人だったことで、本当に深いところまで、ファンが驚くような箇所まで話を引き出せていない。
でも亡くなられてしまったら、もうどうしようもないんです。そんな後悔は無くしていかなきゃいけない。

だから、お願いですから、中村メイコ聞き書きでも対談でもいいから、詳しい人が聞き手になった本を出して欲しい。絶対とんでもない資料になるってわかってるんだから。
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