~これでも仕事用です~

エノケン映画鑑賞記7「エノケンの江戸っ子三太」「エノケンのちゃっきり金太」

今回も二本立てで。


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エノケンの江戸っ子三太
前に「エノケンはズッコケの人じゃない」と書きましたが、これは珍しく完全なズッコケ物で、江戸っ子のつまらない意地が笑いのタネになっています。
ただこれ、後で書く「ちゃっきり金太」のように盛大にカットされてるわけでもないのに、話がブチブチ飛ぶんですよ。何かギャグというより物騒なセリフを切ったっぽいんですね。これがわりと重要な場面ばかりぽいんで違和感が凄い。

話が逸れるようですが、ワタシは面白い作品ってのは二種類あると思っていて、ひとつはクライマックスまで一気呵成に興味を引きつける作品。もうひとつは多幸感とでもいうのか、ハナシとしては別段面白くないんだけど(もちろん面白くても構わない)、ずっとこのハナシっつーか世界に浸っていたい、と思わせるような作品です。
あんまり詳しくないんだけど、昨今「日常系」と呼ばれるフィクション群はまさに後者に当てはまるんだろうし、ワタシの知ってる範囲でいえば「聖☆おにいさん」なんて漫画は完全に幸福感が空気を支配しています。

「江戸っ子三太」にかんしていえば、途中で死人が出るんですが、そのわりに作品全体に妙な幸福感があるんです。
これは後々わかったのですが、どうも岡田敬という監督の特性っぽい。いずれ書きますが岡田敬が監督をつとめた「江戸ッ子健ちゃん」や「エノケンの爆彈兒」でも同様の傾向があるんですね。
だからこそ、です。欠落が非常にもったいないなく感じてしまう。てかこれ、もしノーカットなら一番まとまりがよさそうなのに。


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エノケンのちゃっきり金太
これ、本当は前後篇なんですよね。いやもっと正確にいえば、前編後編で二話ずつ分かれているから全4話構成ってことになる。

ただね、正直評価保留にしたいくらいなんですわ。
というのも総集編と銘打ってあるんだけど、別に総集編ってわけでもない。ただ残ってるフィルム(全編の半分ちょっとしかない)を繋ぎ合わせただけにしか見えない。ギャグを中心にカットされたといわれているけど、ストーリー自体も繋がっていないんだもん。

だから伏線と思われる部分が未消化なのかカットされたのかもわからない。(筒井康隆著「不良少年の映画史」をお読みいただければ、全部ではないものの、カットされた、つまりいくつかの伏線の意味がわかります)
さすがにこれを観て「ちゃっきり金太はカクガクシカジカ」と論じるのは乱暴すぎます。
だから現存する箇所だけの評価になるのですが。

まず観る前とイメージが全然違った。もっと徹底的な追っかけモノだと思ってたんですが、いやそれなら逆に評価が可能なんですが、予想外に風刺っぽいところもあるし、わりとちゃんとしたストーリーもある。となると「話が繋がってない」んだから評価が出来ない。
あと、やけにノンビリしている。何しろ「総集編」(ってことにしておく)だからもっとテンポが出ても良さそうなのにね。
もちろん追っかけのシーンもあるのですよ。んでたしかにエノケンが逃げまくっている。でもそもそも「逃げまくるエノケン」ってのが物足りないのです。

何しろカットされたのはギャグの部分だといわれてるので、「逃げまくるエノケン」について書くには半分くらいしかない「ちゃっきり金太」だけをサンプルにするには心細い。
そこで「どんぐり頓兵衛」とか他の「逃げまくるエノケン」映画も含むのですが、追っかけの時のエノケンって、もう、ホント、ただ「逃げまくってる」だけなんです。いつの間にか攻守交代したり、偶然相手にダメージを与えたり、まァこんなのお約束レベルですが、そんなのも全然ないのです。

チャップリンキートンの映画をご覧になった方ならお分かりでしょうが、逃げるシーンって一番ギャグを入れやすいはずなんです。実際チャップリンキートンの映画は逃げるシーンが一番の笑いどころになっています。だから追っかけのシーンが見せ場になるわけです。
ところが不思議なことに、エノケン映画って逃げるシーンは見事に逃げるだけ。むしろ逃げるシーンになると途端にギャグがなくなる。

せっかく抜群の身体能力があるのに、逃げるシーンでは走りまくるだけで、つかまったりとか飛んだりとか滑ったりとか、ほとんどしない。せいぜいトンボを切るか、塀によじ登るくらい。
さすがにすべての映画で、飛んだり滑ったりのシーンがカットされてるって解釈も無理があるし、これはもう「ハナからやってない」と考えるしかないわけで。
「抜群の身体能力がある」とは書いてみたものの、走りまわってるだけじゃ本当にそうなのか全然わからない。(もっともこれは後日書く「エノケン鞍馬天狗」を観ればわかるのですが)

筒井康隆は「千万長者」についての文章で、山本嘉次郎の計算違いについて書いてますが、エノケンのすばしっこさを感じれる作品って実は山本嘉次郎監督作品以外なんですよ。
孫悟空」のクライマックスだってね、せっかく胸が熱くなるような素晴らしいナレーションで煽っておきながら唐突な終わり方をするし。
もっともワタシは「ここはカットされたんだ」と好意的に解釈してますがね。

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