~これでも仕事用です~

エノケン映画鑑賞記10「エノケンの森の石松」「エノケンの彌次喜多」

時代劇モノ、多いなぁ。続けて観てるとどれがどれかわからなくなってくる。
今回は両作品とも、当時エノケン映画のメイン監督的存在だった中川信夫が撮っています。


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エノケン森の石松
うーん、ひと言でいえば、非常にもったいない!あの放り投げたようなラストを「まとも」に撮っていれば、評価も全然変わったのに、ね。
広沢虎造を「口演」(ナレーション)に迎え、彼の唸りがナレーション代わりになるのですが、これは予想外にいい。もっとかったるくなるかと思いきや効果抜群で、行きの道中が一切なくいきなり金比羅さんに着くんだけど、虎造節でやられると妙な説得力が出るんです。

さて、エノケン映画で「可笑しい」シーンといえば、この「森の石松」の中盤、エノケン柳家金語楼との掛け合いに尽きるんじゃないかと思うわけです。
柳家金語楼という人は妙に「生」っぽく、芝居をしている感じがあんまりしない(途中で足をぽりぽり掻いてるのが可笑しい)。逆にエノケンは意外にも「型」を大事にする人なので、このコントラストがなんとも面白いのです。

そしてエノケンの本質もよくわかります。
中村是好や如月寛多といったエノケン一座の人は、面白いんだけど、たぶんエノケンが本気になれない人なんですね。
たいして二村定一柳家金語楼といった看板のある人とやったら、エノケン持ち前の負けん気が発揮されて、画面が物凄くエネルギッシュになる。
この「森の石松」でも、どこまでアドリブかわからない丁々発止のやり合いは、「今観ると笑えないことが前提」のエノケン映画の中でも例外で、ちょっとだけ笑ってしまいました。

どうもクライマックスシーンは大幅にカットされているようで、そう考えると評価すべきではないのかもしれないけど、それでも一番最後のオチ(ネタは割らないでおく)を観たら、ねぇ。
たしかにああしないと悲壮感が出過ぎるのかもしれないけど、唐突すぎて、じゃ今までやったハナシは何だったんだってなる。
もったいなさすぎるわ、ホント。


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エノケンの彌次喜多
画像のタイトルのアルファベットが「YAJI KIDA」になってますが、これで正解です。劇中でも「きだ八」となってるし。
今は「やじき『た』」が一般的だけど、当時は「やじき『だ』」が普通だったんだろうか?

さて、戦前戦後通じて、いったい幾つあるかわからないほど膨大な数が作られた弥次喜多モノです。が・・・。
さすがにこれは評価保留。現存する版では、特に前半がズタズタすぎて全然わからない。仇討ち兄弟も浪人が瓢箪が苦手ってのも突然出てきたし。
なんだけど、実際これ、オリジナルから10分も欠落がないんだよね。いったいどういうこと?オリジナルからしてハナシが飛びまくってたのか?

二村定一エノケン映画最後の出演作にして主演格なので、特に掛け合い漫唱シーンに期待したんだけど、これもまともなのはひとつだけ。ま、映像はないとはいえ、オープニングの歌はいいんだけどね。
ハナシ的にいえば、欠落のせいもあるんだろうけど、全体的に落ち着きがなさすぎる。メリハリってもんがね、ないんですよ。

だからどうしても(評価保留といいながらアレだけど)点数は低くなるのですが、かろうじて「まァこれがあるなら、いいや」と思えるのがクライマックスです。
このクライマックス、敵役として登場するのが高勢実乗。そう、あの「あァのねオッサン、ワシャ、カナワンヨォ」の高勢実乗です。
デビューはサイレント期で、「狂った一頁」や「國士無双」といったサイレント期きっての名作に次々と出演、超個性派俳優として売り出します。
その後コメディアンに転じ、独特のメーキャップと先ほどのフレーズで一躍トップスタァに躍り出たわけです。

この「彌次喜多」の翌年には「旅役者」という人情モノの映画に主演するなどマジメな演技を捨てたわけではありませんが、トップスタァになってからは場面食いのコメディリリーフ専門、なのに格は主演級扱い、という洋画邦画問わず、また現在に至るまで類似した存在がいないのが凄い。

エノケン映画では「彌次喜多」の他に「孫悟空」、「礒川兵助功名噺」、さらには「天晴れ一心太助」に出演していますが、ユニークな敵役としては「彌次喜多」が一番光ってると思う。
珍しく高勢実乗が歌う場面があるし、エノケンがオッサンの扮装をしてモノマネをする、なんていうサービスシーンまである。
でも、やっぱ、基本は一緒。
とりとめもなく登場し、大声で暴れた末、またとりとめもなくやられて例の「あァのねオッサン」と叫んで去っていく。
どの映画でも基本それだけなんだけど、「彌次喜多」では上手くハマってる方です。

「どの映画にもワンシーンしか出演しないのに、エノケンロッパと人気を分け合った」という高勢実乗とエノケンの掛け合いを観るだけでも価値がある。
森の石松」の項で「看板のある人とやったら、エノケン持ち前の負けん気が発揮されて、画面が物凄くエネルギッシュになる」とは書いたけど、さすがのエノケンも負けん気を発揮するどころか、高勢実乗のあまりの怪演ぶりにちょっと戸惑ってるようにさえ見える。
それも含めて、異様な存在感同士の対決は面白いのですがね。

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