~これでも仕事用です~

柳田貞一は巧い!

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今回は何度も名前を出している柳田貞一のことを書きます。

ファン以外の人からすれば、エノケンと柳田貞一の関係は少し掴みづらいかもしれません。
わかりやすくいえば柳田貞一が師匠、エノケンが弟子となるのですが、注意すべき点は「浅草オペラのオペラ歌手としてスタァだった」柳田貞一と、「その柳田に弟子入りして、コーラスボーイとして初舞台を踏んだ」エノケン、という関係がスタートだったということです。
つまり純粋な芝居や、ましてコメディアンとしての師匠ではないのです。

さらにわかりづらいのが、師匠であるはずの柳田貞一が弟子が座長のエノケン一座に所属していた、ということです。
これは浅草オペラの衰亡をみればよくわかります。
やや衰退の影を見せていた浅草オペラは、1923年に起こった関東大震災で大打撃を受け、これが決定打になって存続することが不可能になってしまいました。
エノケンの示唆通り「お客の心理が変わっ」て観客が激減したこともあるのでしょうが、震災で楽譜からなんやらが消失したんだから、仮に細々でも続けるのは無理だったんです。
途方に暮れたのが浅草オペラのスタッフやスタァたちで、その中には柳田貞一やエノケンも含まれます。

彼らは人気が凋落した浅草オペラに代わって、より喜劇色、芝居色を強くした音楽喜劇に活路を見いだします。劇中歌もオペラ調からジャズソングへ様変わりしました。
劇団「カジノ・フォリー」は川端康成の「浅草紅団」のおかげもあって一躍浅草でもトップクラスの人気劇団になるのですが、その中でとくに人気を博したのが新進気鋭の存在だったエノケンでした。
強い人気に支えられたエノケンは周囲から押し上げられるように座長へと上り詰めるのですが、人情に厚く師匠思いのエノケンは柳田貞一を幹部として自分の劇団に所属させました。
柳田貞一がスタァだったのは、あくまでオペラ歌手としてです。しかし浅草オペラ亡き後、完全に行き場を失っていた。それを弟子のエノケンが救ったのです。

もう一度いいます。柳田貞一はオペラ歌手でした。オペラですから多少芝居の要素はありますが、少なくとも「出」は演技者でもなければ、ましてやコメディアンでもありません。
しかしけしてお情けで、エノケン一座の末席に置いてもらっていたわけではないのです。
弟子のエノケンに拾ってもらった形となった柳田貞一は、いったいどこで身につけたのか、当時の役者には珍しい、型に嵌らない自在型の演技者となり、能力面においてもエノケン一座を支える存在になるのです。

ワタシはエノケン映画においての柳田貞一の演技しか知りません。それでも、もう、とにかくナチュラルで、笑いの感覚にも長けている。
たとえばエノケンコメディリリーフとして2シーンしか出てこない「江戸ッ子健ちゃん」で笑いを生み出しているのは、もっぱら柳田貞一です。つまりエノケンなしのシーンでも笑いが作れるわけで、何というか、下手にこれだけ凄いと「エノケンの演技の師匠」と勘違いされてもしょうがないかな、とすら思います。

以前「柳田貞一は小悪党がハマる」みたいに書きましたが、先の「江戸ッ子健ちゃん」は優しいお爺さん(つまり老け)役だし、「ちゃっきり金太」や「ざんぎり金太」では威勢のいい、でも善人のオヤジ役、「孫悟空」は高邁な三蔵法師
「猿飛佐助」では貫禄たっぷりに真田幸村を演じていますし、出番は少ないけどエノケンに散々振り回される「誉れの土俵入」や「びっくり人生」での「せっかちな」映画監督役も面白い。
個人的にベスト演技だと思うのが「ざんぎり金太」の幸兵衛爺さん役で、金太に「バカだバカだ」と繰り言をいう様は完全に「男はつらいよ」のおいちゃん(森川信)のオリジンです。

どれもこれも、まったく違和感がない。何つーか、巧すぎるが故にあまりにも役柄に嵌まり込んでるから、逆に巧いとか感じさせないのです。(筒井康隆リチャード・アッテンボローに似た役者、と記している。ま、リチャード・アッテンボロー自体知ってる人は少ないけど)

柳田貞一は自身の全盛期(つまり浅草オペラ時代)をエノケンとともに自ら再現した「四つの恋の物語「第三話・恋はやさし」」(1947年)に出演後、すぐに逝去しました。
しかしですな、柳田貞一は1896年生まれなので、エノケン(1904年生まれ)とはわずか8歳しか違わない。
エノケンは1970年に亡くなってますが、これは当時としもやや早逝の方(享年65)ですので、1970年代まで柳田貞一が生きてたとしても何の不思議もないのです。

エノケンの盟友である1900年生まれ(つまり柳田貞一とは4歳差)の中村是好は1989年まで存命でしたし、柳田貞一より11歳下で数々のエノケン映画に出演していた柳谷寛は、2002年まで生きておられました。
中村是好や柳谷寛は長寿といってもいいと思いますが、それにしても柳田貞一は早すぎる。

もったいない、としかいえない。
もし柳田貞一が長生きしてたら、もう信じられないくらいの味がある名優になってたと思う。
いやワタシはすでに名優と認めているのですが、個人的意見ではなくてね、あくまで世間的に。
それくらいの評価があって然るべき存在なのですが。

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