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~これでも仕事用です~

エノケンは和製チャップリン?

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こんなタイトルにしたのは、もちろんこう言いたいからでして。
エノケン和製チャップリンではない!と。

ワタシの見立てでは、エノケンこと榎本健一とチャールズ・チャップリンはあまりにも違いすぎるというか共通点がなさすぎるので、正直断言するほどのことでもないと思うのですが、実際にエノケンを「和製チャップリン」と著述している文献が実に多い。
これが「世界の喜劇王チャップリン」「日本の喜劇王エノケン」くらいの軽い感覚の話なら何も申し上げることはないのですが、もし何らかの共通点を見出してそう断じているのなら、おいおい、と言いたくもなるわけでね。

さて、戦前の日本には様々なイミテーション芸人がいたそうです。
チャップリン、偽アステアが、当時最大の歓楽街だった浅草から田舎の芝居小屋まで、当たり前のようにステージにあがっていたというのです。
ということは今でいえばモノマネ芸人になるのかな、と思いがちですが、たぶんそんなレベルですらなかったのではないかと睨んでいます。モノマネですらない、偽チャップリンならチャップリンの扮装をしてるだけ、みたいな。

エノケンですら偽エノケンがいて、ま、看板の文字をよく見れば「エノケ『ソ』」だった、みたいなオチなのですが、これがもう、エノケンとは似ても似つかないただのオッサンだったみたいなんですね。
この話からも偽チャップリンも偽アステアも、推して知るべし、だと思うわけで。

だいたいチャップリンの半分でもパントマイムができたり、アステアの半分でも踊れたら、わざわざ偽者にならなくてもカネが取れたはずだしさ。
ただし色川武大が記したところによると、東海林『次』郎(東海林『太』郎に非ず)というニセモノは、見た目といい歌唱力といい、かなりクオリティが高かったそうですが、これは例外でしょう。

ひとりだけ文句なしに「和製チャップリン」と言える人がいます。が、その前に。
昭和初期、松竹蒲田は新人監督の習作を兼ねて膨大な数の短編サイレント喜劇を作りました。
この中でとくに喜劇映画の才を発揮したのが小津安二郎斎藤寅次郎ですが、詳しい話は今回はオミット。
1932年に斎藤寅次郎が撮った作品に「チャップリンよなぜ泣くか」というものがあり、主演は小倉繁
スチールが残っていますが、もう、見ると笑ってしまいます。何故なら小倉繁の扮装がチャップリンそのものだから。

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ね、笑っちゃうでしょ。
小倉繁は純粋コメディアンではないのですが、数々の短編サイレント喜劇に主演したこともあって文献によっては喜劇人として分類されている場合もあります。
チャップリンよなぜ泣くか」だけではなく他にもチャップリンの扮装で出演した映画があるそうなので(あまりフィルムが残っていないので把握が難しいんだけど)、能力面で不明な点が多いのを差し引いても、ま、小倉繁和製チャップリンといって差し支えはないと思います。

しかしエノケンにかんしては扮装すらチャップリンっぽい作品がない。
もう、無理矢理いえば「エノケンの魔術師」がそうかもしれないけど、これはチャップリン意識じゃなくて魔術師の典型的衣装なだけだし。
エノケンチャップリンのイミテーション芸人でないのはあきらかですが、最初に書いたように共通点すらほとんどない。
これはそもそもの「出」からして当たり前なんです。

チャップリン、そして同時代に活躍したバスター・キートンもそうなのですが、彼らはパントマイム芸人でした。
パントマイム、というと今では余芸だったり、はたまた一気に芸術の方向に振れちゃって、あまり演芸的ではなくなってしまいました。
もともとパントマイム芸人だったはずの中村有志もすっかり大食い選手権の司会者だもんね。(←あれ、もう司会降りたんだっけ?)
チャップリンやキートンの凄いところは、ギャグを先鋭的にすることによって、数々のサイレント喜劇の名作を作り上げたことです。
まずは「動き」という基礎があって、その上で成り立つギャグを演じたわけです。

翻ってエノケンはというと、パントマイム芸人でない。だから能力面で和製チャップリンになれるわけがないのです。
エノケンの世代でパントマイムを基礎にした芸人は永田キングくらいで、あとパントマイム芸人ではないもののチャップリンの芸を自己流に消化した横山エンタツあたりに辛うじて和製チャップリンの資格がある、と考えます。

エノケンはタップも踏めなかったから和製アステアではないし、毒舌やアナーキーなギャグを売りにしたわけでもないから、当然和製マルクス兄弟でもない。
パントマイムも出来ない、タップも踏めない、毒舌でもアナーキーでもない。じゃ、エノケンはいったい何なんだ、となるわけです。まったく日本独自の存在なのか、それとも・・・。

ここで、もはや日本での知名度は皆無ともいえる、とある芸人の名前が浮上します。
それは・・・、長くなりそうなのでまたの機会に。

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