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~これでも仕事用です~

ファーストコンタクトは用心棒!

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もしただの一本も黒澤明作品を観たことがない人に「まず最初に、何を観たらいい?」と問われたら、間髪入れず「用心棒」と答えます。

黒澤明といって、まず誰もが思いつく日本映画史上の最高傑作「七人の侍」はファーストコンタクトにしては長いし、不朽の名作として誉れ高い「生きる」は黒澤明作品としては、いわば変化球で、ここから入っても他の黒澤作品に繋がらない。
最もストレートで、しかも観やすい、となったら、これはもう「用心棒」しかないわけです。

そして偶然かな、「用心棒」の封切りが1961年。つまりGumi-chan1961の年であり、1960年代というカテゴリを持つこのブログに書くことができるわけで、この年に公開してくれてありがとう!と心から申し上げたい。

どうも、世の中の評価としては、続編ともいえる「椿三十郎」の方が高いみたいだし、実際「椿三十郎」はリメイクまで作られた。
ま、ワタシはリメイク版を観てないので、どっちがどうとはいえないのですが、まずは正編の「用心棒」からリメイクすべきじゃないのかね?

余談ですが、「椿三十郎」は観てないけど、森崎東の撮った「野良犬」も、テレビでやった「生きる」や「天国と地獄」も観たけど、一番マトモだったのは「天国と地獄」で、それもかなり甘めにみて、ですからね。
他は、うーん、リメイクする意味があったのかどうなのか。

リメイク版はともかく、黒澤明が撮った「椿三十郎」も、もちろん好きなんですよ。でもあれは小品としての面白さなんです。パートカラーだったり、小林桂樹のオトボケだったり、若大将青大将コンビだったり、以前書いた入江たか子の名台詞だったり、そして衝撃のラストシーンを含めてね、見どころだらけで本当に面白いんだけど、小技的な面白さでね、それに比べると「用心棒」はすべての意味でダイナミックなんです。

まずタイトルバックからして凄い。
<のそのそ>と歩く三十郎の後頭部をバックにクレジットが重なるっていうね。もうあれを観るだけで引き込まれる。

以前ワタシはこんなことを書きました。

『邦楽を一部オーケストラを用いて洋楽風アレンジにしてあるところもね、能や歌舞伎の様式美そのままではなく、まして様式美の破壊でもなく、映画ならではの新しい様式美を構築しようという気概が見える』(2016年4月20日更新「準エノケン映画鑑賞記3「虎の尾を踏む男達」」より)

基本、黒澤明は様式美が好きな人だったと思います。しかし「用心棒」は様式美とは正反対のことばかりしている。
この映画は「(桑畑)三十郎という、ひとりのダーティーヒーローの生き様をみせる」ことに特化している。これがまったく時代劇らしくない。

本来時代劇のヒーローに人間味は必要なかったんです。戦前の「鞍馬天狗」も「旗本退屈男」も、「用心棒」よりやや先行した、同じくダーティーヒーローを主人公にした「座頭市」だって、人間味は弱い。
それまでの黒澤作品だって、「隠し砦の三悪人」や「蜘蛛巣城」のヒーローたちも、そこまで人間味があるわけではない。
あ、人間味がないってのは「冷たい」ってことじゃなくね、完全無欠の、何があっても弱みなんか見せない、ひたすらカッコいいだけって意味です。

ところが「用心棒」は三十郎の人間味だけで全編押し切っている。
にもかかわらず、一切の辛気臭さがなく、完璧な娯楽作品に仕上がっている。
そりゃワタシも黒澤映画の最高傑作といえば「七人の侍」とか「生きる」とか「醉いどれ天使」を挙げるけど、最も黒澤明の良さが詰まった作品なのが「用心棒」なのは疑いようもないわけなんです。

七人の侍」の話をもう少しだけします。
あの話は行き掛かり上そうなっただけの、いわば偶発的に生まれたヒーローなんですよね。
それでも、まったくの正義感がないのかといえば、そりゃ高邁な精神ではなかったかもしれないけど、農民たちを救いたい、という気持ちは(とくに志村喬が演じた勘兵衛は)内包していた、と考えて間違いない。

ところが三十郎は違う。
物見遊山的というか、もっといえば野次馬的であり、デタラメです。そういう意味では「七人の侍」の菊千代に近いんだけど、剣力、知力、そして「侍ではないこと」にあきらかにコンプレックスを抱える菊千代と違って、三十郎は文句なしの剣豪であり、そしてふたつの勢力を手玉に取ろうとする程度に知力も優れている。

つまり三十郎は精神的に余裕のあるキャラであり、そういう点が「用心棒」を完全な娯楽作品にした要素で、逆にいえば行動原理が明確な「七人の侍」よりも深みには欠けます。
もっとも黒澤明はそういう意図(辛気臭い要素を全部すっ飛ばして、ひたすら展開の面白さとアクションだけで魅せる)で撮っただろうから、ぜんぜん問題はないんだけど。

この映画は、是非観てほしい作品だから、なるべく具体的な内容は書きませんでした。というかこんな単純明快な映画はないから、後付けの説明はいらない。
ただ黒澤明が紡ぎだした「優美な肉体でスピーディに動き回る三船敏郎」を観てほしいな、と。

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