~これでも仕事用です~

モダニズム映画鑑賞記1「音楽喜劇ほろよひ人生」

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まずはこれから始めないとしょうがないでしょう、ということで、記念すべき「モダニズム映画鑑賞記」の第一回目は、P.C.L.映画(のちの東宝映画)の第一回作品でもある「音楽喜劇ほろよひ人生」(1933年、木村荘十二演出)です。

どうも、さいきん知ったのですが、というか実際さいきんのことなんだけど、今年の4月に発売されたスピッツの「みなと」ってシングルのジャケットに、この映画のスチールが使われたみたいなんですね。

 

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加工もほとんどされておらず、何というか、まんまですね。
しかし何だって「ほろよひ人生」なのか?ワタシはスピッツに詳しくないからわからないけど、何かあるんでしょうかね。

ま、それはいい。肝心の内容です。
以前「カマタリ・モカ・マタリ」というエントリで、藤原釜足はこの映画の準主役、みたいに書いたのですが、まァ、ほぼ主役です。あくまで釜足目線でストーリーが進むし、釜足の顔アップで幕となるしね。
でも、形式上は大川平八郎と千葉早智子を主役としたかったのでしょう。

さて、千葉早智子のことは何度か名前を出してきましたが、もうひとりの大川平八郎です。
初期P.C.L.の代表的なスタァですが、今の目でみると、非常に地味でね。二枚目なんだけどスタァ然としてないというか。
いや、たぶん当時から地味と見られてたんじゃないかな。実際二枚目主役スタァから、作品を重ねる毎に二枚目には違いないけど脇役になっていったし。

高峰秀子の著述によれば、当時はニックネームの「ヘンリー」と呼ばれていた、とありますが、このニックネーム、単なるニックネームではありません。
彼は当時よくいた「アメリカ生まれの日本人」ではないのですが、かなりのお坊ちゃんだったようで、18歳から10年間もアメリカに留学(遊学?)していました。ヘンリーはその頃からのニックネームです。
アメリカにいる頃から俳優を志すようになり、数本のハリウッド映画に出演しています。といっても早川雪洲上山草人のようなスタァではなく、端役だったようですが。

戦後、ニックネームのヘンリーを芸名に使い「ヘンリー大川」に改名、そして同時期に、ハリウッド帰りの大先輩にして大スタァの早川雪洲とともにデヴッド・リーン監督の名作「戦場にかける橋」に出演しています。
ま、「戦場にかける橋」という映画はご存知なくても主題曲の「クワイ河マーチ」はご存知でしょう。
え?知らない?いや絶対知ってますよ。ホラ、あの「サル、ゴリラ、チンパンジー」ってやつですよ。

話が大川平八郎からチンパンジーに飛んでしまいましたが戻します。
ひと言でいえば、意外にもよく出来た映画です。
ストーリーはあってないに等しい。一応藤原釜足千葉早智子、大川平八郎の三角関係が軸ですが、このあまりにもたわいないストーリーからしても、音楽を主体とした映画にしよう、ということがわかります。
音楽映画は、こーゆー、どうってことないストーリーの方がいいのです。

巻頭、いきなり「Yes, Yes, My Baby Said Yes, Yes!」のインストが流れるのにビックリさせられます。
以前書いたように、元はエディ・カンターの映画の挿入歌なのですが、エノケン映画の第1作「エノケンの青春醉虎傳」でも巻頭で歌われています。
当時は日本でもかなりメジャーな曲だったんでしょうかね。

途中、藤原釜足が歌ったり、ほとんど意味なく登場する古川緑波が歌ったりして、楽しい。古い映画だし、P.C.L.第一回作品ということもあって、いろいろ熟れてないので、全体的にはかなりかったるいですが、それでも歌のシーンになるとハツラツとしています。
大川平八郎扮するアサオが歌って大ヒットしたという体の「戀の魔術師」という歌も、大ヒットと言われてもそこまで違和感がないほどよく出来ており、劇中でかなりしつこく使われているにもかかわらず嫌悪感はありません。

ダンなのは「音」だけじゃない。
あえて古いものをすべてそぎ落として、すべてをモダニズムに振ってるって感じなのです。
駅のプラットホームの景はバックに書き割りを使い、これが当時の最先端のレビュウ劇を彷彿とさせるモダンなものだし、途中の追っかけのシーンもモダニズム名所観光といっていいほどです。
戦前モダニズムに興味がある人なら、この追っかけを見るだけでも価値があります。

その追っかけ、二対二の追っかけなのですが、追う側(悪役)が横尾泥海男と吉谷久雄の凸凹コンビ、そして追われる側が藤原釜足と、途中で仲間になったルンペン、なんとこのルンペンが丸山定夫なのです。

「新劇の團十郎」といわれたほどの名優で、広島の原爆で命を落とした丸山定夫ですが、この時分はP.C.L.の映画によく出ており、でも大抵はもっと重い役なのです。ところがこの映画では完璧なコメディアンぶりを発揮していて、それだけでも貴重です。
ま、この人は浅草オペラ出身で、エノケンと親友だったくらいだから、もともとコメディ演技は出来る人なのですがね。

当然藤原釜足も完璧なコメディアン演技なんだけど、ラストの、涙を流しながらの満面の笑みは、のちの演技派ぶりを思わせる素晴らしいもので、この表情だけで映画の完成度が上がったといっで過言じゃない。

以前も書いた通り、(エノケンと比べるとですが)地味な藤原釜足と、地味な二枚目の大川平八郎、そしてやはり地味なヒロイン顔の千葉早智子、ともう主演格が揃いも揃って地味。さらには珍しくほぼ素顔で出てくる(つまり老け役ではない)徳川夢声も地味だし(若き日の、ミスターこと鈴井貴之にそっくりなのにビックリ!)、音楽要素を抜きに考えるなら、こんなに地味な映画はちょっとお目にかかれない。

ただ、それでも、ここからすべて始まったんだ、とちゃんと感じさせてくれるだけの作品にはなっていますよ。

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