~これでも仕事用です~

蒲田から大船へ

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もうほんの一時期だけですが、大船に「鎌倉シネマワールド」というテーマパークがありました。
ワタシも一度くらい行ってみよう、と考えてたら、あっという間に閉園になった。資料によると、わずか3年余だったらしい。

後で聞くところによると、このテーマパーク、本当に評判が悪かったようです。
PRのために来園した渥美清が怒って帰った、という逸話があるほど、探せば悪評はいくらでも出てきます。
ま、そりゃ、3年で潰れるわなぁ・・・。

実はワタシも勘違いしていたのですが、鎌倉シネマワールドは松竹大船撮影所の跡地に出来た、ということではありません。
シネマワールドのオープン当時は若干縮小しながらも撮影所は存続しており、撮影所が閉鎖されたのはシネマワールド閉園から2年後の2000年です。
近隣の方はもちろんご存知でしょうが、撮影所とシネマワールドの跡地は、鎌倉女子大学大船キャンパスになっています。

松竹が大船に撮影所を構えたのは意外に新しく、1936年のことです。
それまでは東京の蒲田に撮影所があったのですが、え?そう、あの「蒲田行進曲」の蒲田です。
しかしこの「蒲田行進曲」、いろいろイビツなのです。

原作はつかこうへいで、1980年に初演された舞台が、まァいや「原版」ということになります。
この演劇は大ヒットし、さっそく深作欣二が映画化を目論見ます。そして1982年、松竹系で公開されたこの映画版も大ヒットし、風間杜夫平田満を一躍スターに押し上げることになるわけです。

で、どこがイビツなのか、です。
その前にタイトルとなった「蒲田行進曲」という楽曲は本当に存在しており、というか劇中でも使われたあの名曲が作られたのは、松竹が蒲田に撮影所を構えていた頃のものなのです。
そうこう考えても、「蒲田行進曲」の舞台のモデルは松竹蒲田でしかあり得ないはずです。

ところが、つかこうへいは東映京都撮影所をモデルにしており、映画版の監督は東映出身の深作欣二、撮影自体も、松竹の撮影所(つまり大船)ではなく東映京都撮影所で行われているのです。

しかも松竹の単独制作ではなく、当時席巻していた角川春樹事務所との共同制作で、むしろ「松竹っぽさ」は「蒲田行進曲」という楽曲がそのまま使われたことと、ヒロインに松竹の松坂慶子が起用されたくらいしかない。
さらにいえば、「蒲田行進曲」のクライマックスは例の階段落ちですが、松竹蒲田はある時期からほとんど時代劇を作っておらず(時代劇は松竹下加茂の担当)、いろんな意味で「あり得ない」内容なのです。

個人的な感想も、映画版「蒲田行進曲」は佳作には違いないのですが、松竹らしさは希薄であり、むしろ東映色が濃厚です。
だったら最初から映画版は「太秦行進曲」(太秦(うずまさ)=東映京都撮影所のある場所。通称・太秦撮影所)にでもすればよかったんだろうけど、ま、そうもいかなかったんだろうね。あの曲も使えなくなるしさ。

少し脱線しすぎましたが、松竹蒲田の話です。
当時の蒲田映画は所長の城戸四郎号令の下、都会派映画を量産していました。
都心部から近い蒲田は撮影所としては便利な場所にありましたが、移転を余儀なくされます。

最大の理由は、蒲田が工業地帯になったことで、日夜轟音が轟く場所になってしまったことです。これは無声映画ならともかくトーキーを撮るには不向きすぎで、すぐさま撮影所の移転が計画されます。

候補としては埼玉県の草加、林間都市、平塚などが挙がりますが、土地代が安価の上に、東京から車で一時間で行ける、また東海道線横須賀線が走っている、という利便性も加味され、ちょうど横浜と鎌倉の境にある大船に決定します。

しかし大船は当時、かなり特殊な土地でした。
現在はどうか知りませんが、当時は湿地のような地質で、杭の一本まともに打てなかったといいます。杭も打てないんじゃ建物の基礎すらできない。つまりは、かなり「どうしようもない」土地だったんです。

ここで城戸四郎は発想の転換を図ります。
何と山を削って、セメントで地固めしたのです。これによりスタジオはプレハブのように地面に乗せただけの格好になりましたが、その分建築費は相当安く上がった、といいます。
功罪半ば、といった評価の多い城戸四郎ですが、タダ同然で手に入れた悪地を立派な撮影所にした、経営センスの良さはこのエピソードからも十分しのべます。

松竹は撮影所の移転を記念して、オールスターの超大作「男性対女性」を作っています。松竹だけあって話のスケール自体はこじんまりしたものですが、上映時間は当時としては破格の134分です。
ま、この映画のことはいずれ書きます。

この映画の公開と大船移転が1936年、閉鎖が2000年ですから、大船撮影所は64年の命だった、ということになりますか。
ま、閉鎖はしょうがないけど、最後に鎌倉シネマワールドで微妙にミソをつけたのがなぁ。でもそれだけ評判が悪いとなると、逆に行ってみたかったなぁ。