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~これでも仕事用です~

モダニズム映画鑑賞記2「純情の都」

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今回はP.C.L.映画の第二作になる「純情の都」(1933年)です

前回取り上げたP.C.L.映画第一作目の「音楽喜劇 ほろよひ人生」と同じく木村荘十二演出で、実質主演は大川平八郎と千葉早智子。「ほろよひ人生」で実質主演だった藤原釜足こそワキに回ってるとはいえ役者はほぼ共通しており、そこに竹久千恵子の女優陣、のちに監督に専念することになる島耕二が加わった形です。

竹久千恵子はエノケンのいたカジノ・フォリー出身で、戦後の流行語でいえばフラッパーな感じが魅力の女優さんですが、この人にかんしてはまたいずれ書く予定ですし、島耕二についても、今回はパス。
だから今回は役者にかんしては、あまり書くことがないのです。

ストーリーはまた後で触れるとして、この映画の最大の見所は「スポーツランド」のシーンです。
ここで突然1960年代っぽい話になります。
ワタシより上下二世代くらいの方ならピンときていただけると思うのですが、かつて「デパート」は、まごう事ない「夢の国」でした。
今でいえば、東京デ○ズニーランドとショッピングモールを足して3を掛けたくらいの場所で、デパートに行く=子供時代のハイライトでさえあったと思うのです。

とくに子供のお楽しみといえば屋上遊園地でした。
今はプライバシーの問題や子供人口の減少によってほぼ消滅してしまいましたが、狭い屋上にひしめくように、ジェットコースターや観覧車、ゴーカートなどの遊具が、そして数々のゲーム(といってもエレメカといわれる種類で、ビデオ(コンピューター)ゲームではない)が置いてあったのです。

歴史は意外と古く、最初にデパートに遊園地が設置されたのは1931年。場所は浅草松屋デパートでした。
この遊園地は「スポーツランド」と命名され、中でもグルグル旋回するプレートの上を歩く「ミッキィ横丁」は大人気を博した、といいます。
物凄く大袈裟にいうなら、これが今の東京デ○ズニーランドの元祖、といってもいい。

浅草松屋にスポーツランドが誕生してわずか2年後に封切られた「純情の都」の劇中、まさにそのままの形でスポーツランドが登場しています。

低品質のキャプチャ画像で申し訳ないのですが、どういうものがあっかというと

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↑コーヒーカップですかな。このキャプチャには映っていませんが、乗り物にはベティ・ブープのイラストがしっかり描かれています。当然無許可でしょう

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↑ミッキィ横丁。この後岸井明が転んで旋盤の上で回ります。
これもちゃんとミッキィ(←この表記なら大丈夫か?)のイラストが描かれているのが確認できます。

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↑これは何なんだろ。メリィゴゥラウンドのようにも見えるけど、とりあえず象っぽい乗り物です

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↑ボーリングゲーム。本格的なものではなく小型の簡易なものですが

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↑ゴーカート。ちゃんと当時のレーシングカーを模していますね

どれもこれも、意外なほど面白そうで、なるほど、この当時なら、これは画期的に楽しい場所だったんだな、というのが本当によくわかります。

さて、肝心のストーリーです。
前作「ほろよひ人生」はあまりにも単純極まる話だったのにたいし、こちらは少し入り組んでいます。
音楽色も喜劇色も控えめで、ラブロマンスの要素が強い。
しかしモダニズムはさらに強化されており、先のスポーツランドもそうですし、竣工して間もない東京海上ビルディングや明治製菓銀座売店の喫茶室など、この映画も十分モダニズム観光として楽しめます。

ヒロインの千葉早智子の職業はタイピストですし、その相手役の大川平八郎は図案家、これは今でいうとグラフィックデザイナーですな。
大川平八郎は明治製菓の広告図案を手がけているという設定なので、随所に明治製菓の広告が出てきますが、これは制作費のないP.C.L.映画だからしょうがない。つまりはタイアップ映画なわけで、「ほろよひ人生」だって大日本麦酒(現在のアサヒビールサッポロビールなどの前身)とのタイアップだったし。

それにしてもこの時代にグラフィックデザイナーをメインキャラクターにしているのは凄い。竹久千恵子と千葉早智子が共同生活するアパートメントもモダンそのものだし、朝食にティーカップやティーポットがあるのも、あまりにもハイカラすぎる。
いわばこれは、1933年型トレンディードラマ、なんですな。もうトレンディーって言葉自体がトレンディーじゃないけどさ。

ダンすぎるくらいモダンな設定で、良くも悪くもP.C.L.らしすぎる。そう、途中までは。
ところが、それまでの軽薄な展開から、ラスト間際で突然悲劇に転じるのです。ネタは割らないでおきますが、正直呆然となりましたよ。
一応「恋愛都市東京」という原作があるみたいだけど、ワタシは読んだことがない。だから原作通りなのかどうかもわからないけど、この悲劇的展開はP.C.L.映画、そして東宝映画に馴染んでいる人ほど衝撃を受けると思います。

東宝映画になってからも受け継がれたP.C.L.映画のキャッチフレーズに「明るく楽しいP.C.L.映画」ってのがありました。
「純情の都」製作時にはまだこのキャッチフレーズはなかったと思うけど、それにしてもそれまでの軽薄な雰囲気があるだけに、この展開は辛いし、ちょっとやりすぎだわ。しかも悪役側に何の制裁もないのは、モラルの観点からもヤバすぎます。

ま、これに懲りたのか、最初からメロドラマや悲劇を謳った作品以外で、こういった展開をみせる作品は作らなくなりましたが、そういう意味では「超えなきゃいけない通過点」だったのかなぁ。

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