~これでも仕事用です~

1961年の世の中 from 1960年代日記

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前回の「1936年の世の中 from ロッパ日記」の1961年版です。
著名人の書いた日記(=出版されているもの)から、当時の世相を見ていこうという趣旨なのですが、1961年版もやろうとは思っていたんです。
でもサンプルっつーか、良い日記がなかなか見つからなくて。

今回は小林信彦著「1960年代日記」を元に書いていきますが、お断りしておきたいのは、この書籍はいわゆる日記抄、つまり抜粋した日記の書籍化だということです。

文庫版のあとがきに『日記の中から、60年代という<時代の表出>に関係ある部分を書きうつして発表』した、とあるので、「古川ロッパ昭和日記」のような、私生活にかんすることまで「そのまま」な日記の書籍化に比べると弱い。
(それをいうなら、「古川ロッパ昭和日記」も実は日記抄のようですが)

さらにいえば、当時の小林信彦の存在そのものが特殊なもので、雑誌の編集を手がけながら、他の雑誌
雑文(今でいうコラム)を書き、時にはテレビにまで出てしまう人が普通なわけがありません。
だから「一般庶民がどのような暮らしをしていたか」を図ることはできないのですが、これはこれで、当時のマスメディアの裏側を見る、という意味で貴重なのです。

さて、1961年の正月といえば、ジャズファンには記念碑的な出来事がありました。
天才ジャズドラマーのアート・ブレイキーが初来日を果たしたのがこの時で、この時の歓待ぶりに感激したブレイキーは大の親日家になり、晩年に至るまで何度も来日を果たしました。

この時、ブレイキーを羽田空港まで迎えにいったのが、小林信彦の弟でイラストレーターの小林泰彦でした。
さらに当時、新進気鋭のカメラマンで、のちにジャズのカメラマンとしても著名になる大倉舜二も同行しています。
翌日には小林信彦を伴ってブレイキーのコンサートにも足を運んでおり、そのことは日記にも書かれています。

ところがこの記述が異様にあっさりしている。小林信彦自身があまりジャズに関心がなかったのかもしれませんが、この出来事に限らず、日記抄であることを差し引いても、すべての記述があっさりしすぎているのです。
この辺りも、たぶんかなり抑えめな表現にしてあるんでしょうが、怒りや嘆きを叩きつけている「古川ロッパ昭和日記」とは違います。
ま、この辺は自分で抜粋しているということもあるんでしょうけどね。

さて、この日記に書かれた、そしてあまり有名ではない<時代の表出>となった箇所をひとつピックアップしたいと思います。
1月19日の日記に、テレビで「市民ケーン」を見た、とあります。さらに補足として『この放送によって初めて日本人の眼に触れた』と書いてある。

説明します。
オーソン・ウェルズの不朽の名作「市民ケーン」が制作されたのは1941年です。まだ大戦前だったとはいえ、もう頃にはアメリカ映画の新作は輸入されておらず、当然この映画も、日本に入ってきたのは戦後になってからです。
ところが何故か公開されないまま時が過ぎた。のちに様々な歴代映画ベストテンでベストワンに輝くような傑作であるにもかかわらず、です。

結局、日本で公開されたのは1966年。制作から25年後のことでした。
それまで「噂で聞く」名作を、ほとんどの日本人は目にすることができなかった。できたのは渡航したほんの一部の人のだけだったんです。
で、一般には1966年に初めて日本人が見ることができた、とされるのですが、実は1961年にNHKでテレビ放送されていたのですね。

ま、実は劇場公開の前にテレビで「市民ケーン」を放送したらしい、ぐらいのことはわかっても、何月何日に、どのチャンネルで、となると、当時の新聞のテレビ欄を片っ端からあたるしかないのが普通ですが、こうやって日記(というか書籍という形)で残しておいてくれるだけで、後年の研究がずいぶんラクになるのです。

さて「1936年の世の中 from ロッパ日記」では「食」をテーマに書きました。
だから今回も食について書きたいんだけど、何しろ「1960年代日記」は日記抄なので、わずか21ページで1961年分をまとめてる。しかもその中に食べ物にかんすることが一行もないのです。(強いていえば大倉舜二が数の子を食べたというくだりくらい)

しょうがないので、前後1年から抜粋しようと思っても『ひるは、「ポニー」(筆者注・葉山にあったレストラン。現存せず)で、ナポリタン、ミート・ソースと食べ(後略)』(1960年8月21日付日記より)と、はっきり店名とメニューが記してあるのは、これしかないのです。

うーん、やっぱり他の日記でもう一回やるしかないか。
いや、別に、そこまで「食」にこだわってるわけじゃないんだけどね。

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