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~これでも仕事用です~

1960B&A映画鑑賞記1「大学のお姐ちゃん」

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さ、それでは1960年前後の映画について書くこのカテゴリ、悩んだ末に第一回目に選んだのは、当ブログにて何度か名前を出している「大学のお姐ちゃん」(1959年・東宝)でいってみたいと思います。

まずは主演の三人、通称「お姐ちゃんトリオ」についてから始めなきゃしょうがない。

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団令子
劇中のニックネームは「パンチ」。たいてい「異様なほどお金にガッチリしている」という設定が割り振られており、トリオの中で一番のしっかり者

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中島そのみ
ニックネームは「ピンチ」。お金持ちのお嬢さんだけど、ちょっと頭が足りない役が多い。いわゆるボケ役

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重山規子
ニックネームは「センチ」。中庸で作品によって微妙にキャラクターが異なる。ナイスバディが売り

(注・ニックネームにかんしては後のシリーズで定着したものであり、この第一作目の「大学のお姐ちゃん」にかんしては別のニックネームがついている)

この三方が主役なのですが、はっきりさせておきたいのは、三人とも「大学のお姐ちゃん」から始まる「お姐ちゃん」シリーズの開始時点ではスターではなかったということです。
この中で生粋の役者は団令子だけ。中島そのみの本職は歌手、重山規子は元・日劇ダンシングチーム所属のダンサーです。
だから役割分担も明確で、女優の団令子がストーリーを引っ張り、劇中に中島そのみが歌うシーンと重山規子が踊るシーンが必ず挿入されています。

どうしてスターではない、しかも他業種(ってほどじゃないけど)からかき集めたような三人組が出来たかです。んで、脇役ではなく主役なのか。
これは「三人娘」シリーズと大いに関係があります。

1955年頃、当時若手ジャズシンガー御三家といわれたのが美空ひばり雪村いづみ江利チエミでした。
今考えると美空ひばりがジャズシンガーの範疇にいるのはおかしいけど、この少し前に空前のジャズブームがあり、大人の歌手への脱皮をはかっていた美空ひばりもずいぶんジャズのレコードを出していたのです。

少女時代の美空ひばりは松竹映画に出ることが多かったのですが、ライバルであり友人関係だった、ひばり・いずみ・チエミをトリオとして使う、という映画を東宝が企画します。
その結果、数本の三人娘映画が出来たのですが、三人とも売れっ子だったという事情もあるのでしょうが、だんだん三人娘映画が作られなくなっていきます。

「歌う不夜城」はいずみとチエミ、「大当り狸御殿」はひばりといずみ、といった感じで、ひとり欠けた映画も作られましたが、そのうち美空ひばり東映専属のような形となったため、自然消滅に近い感じで三人娘映画はなくなってしまいました。(1960年代に入ってから一本だけ作られたけど)
「ジャンケン娘」から始まる三人娘映画は、以前書いた通り各人のキャラクターのせいか、モダンさが売りの東宝にしては泥臭い出来で、しかし歌で彩られた映画は観客を集めていました。

おそらく東宝側は三人娘映画の代わりを求めていたのでしょう。そこで、かどうかはわかりませんが、抜群のネームバリューだった三人に変わるなら、逆の発想でフレッシュな無名の新人にやらせよう、となったのではないかと。
あくまで三人娘映画の代わりなのは、監督が三人娘映画のメイン監督だった杉江敏男がそのまま引き継いでいることからも、それはうかがえます。

このエントリを書くにあたって、かなり久しぶりに「大学のお姐ちゃん」を観返してみたのですが、正直強いショックを受けました。
というのもですね、さいきん戦前のP.C.L.→東宝作品ばかり観ているせいもあるのでしょうが、もう戦前モダニズム映画と何ひとつ違わないのです。

セットの雰囲気や構図、歌が入る呼吸も一緒。違うのは役者と音楽と、カラーでシネスコなところくらい。
東宝は一回解体に近いところまでいったのですよ。それなのに戦前モダニズム映画の感じがここまで濃厚に残っているとは。この色合いや空気感は松竹や東映とはあきらかに違う、東宝独特のものです。

監督は先述の通り杉江敏男ですが、この人が東宝に入ったのは戦前です。山本嘉次郎他の作品でも助監督についているから、当然戦前モダニズム映画のニュアンスが肌感覚でわかっているはずで、しかも大スターが主役の三人娘映画のように変に気を使うこともないからか、戦前の東宝カラーを存分に出している。それが楽しい。

ワタシはあんまり笠原良三って脚本家は買ってないんだけど、この作品にかんしては良く書けており、自己紹介を兼ねたトップシーンとか上手いなぁと感心しました。
そして何より、ラストのボクシングシーンからのダンパシーン!これは昔観た時も良いも思ったけど、今観ても本当に素晴らしい。こんな綺麗な流れでエンドロールまで持っていけている映画はそうそうない。
映画全体でみれば傑作とまではいえないけど、このクライマックスだけはどこの国に出しても恥ずかしくない、そんな名シーンです。

あ、でも、残念なことに、この映画はDVDになってない。というか「お姐ちゃん」シリーズ自体が一本を除いてメディア化されていないのです。(その一本も特殊な販売方法だし)
だから「お、観てみようかな」と思われても手段がない。ま、気長にスカパーで放送されるのをお待ちください、としか言いようがないわけで。

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